
はじめに
臨床心理学は、こころを扱う学問です。
そして臨床心理士・公認心理師は、こころを扱うことを専門にしている職業です。
依って立つ理論によってばらつきはあるかもしれませんが、
私が人と関わる上で、最も大切だと思っていること、最も大切な心理臨床観の話をさせていただければと思います。
人の心は読めるのか
「人の心が読めるの?」
「人の心がわかるの?」
初対面の人に自分の職業を伝えると、必ずと言っていいほど聞かれる問いです。
冗談の場合もありますし、警戒される場合もあります。
羨望の眼差しが向けられることもあれば、
そんな職業は胡散臭い、という疑惑の念が含まれていることもあります。
今回、このブログの中で、心理学についての記事を書いていけたらと思っていましたが、
なかなか筆が進みませんでした。
心理学に関する理論は確かにたくさんあります。
面白おかしく、キャッチーに書くことも、簡単にまとめることができるものもあります。
しかし、理論が全てではありません。
そのことを、痛いほどよくわかっているのに、
あたかもそれが全てであるかのように、
シンプルにそれを書いていくということに、大きな抵抗感がありました。
今回は、これからいろんな心理学・心理臨床にまつわる記事を書いていくにあたり、
前置きといいますか・・・
本当に大事なこと、こころを扱うとはどういうことなのか、
私の基本的なスタンス、考え方について、ここで書かせていただければと思っています。
カウンセリング ― 「こころを聴く」ということ
臨床心理士にとって、最大の要ともいえる実践の一つがカウンセリングです。
カウンセリングとは、「相談に来られる方々の課題に応じてさまざまな臨床心理学的方法を用いて、
心理的な問題の克服や困難の軽減にむけて支援」するというものです(日本臨床心理士会HPより)。
さて、最初の問い、「人の心がわかるの?」ですが、
この問いを投げかけられた時、
「人のこころが読めるのが臨床心理士ではなく、
“人のこころは簡単には分からない”ということを、誰よりもよくわかっているのが臨床心理士です」
と答えるようにしています。
これが一番大事な、核となる考え方、基本姿勢だと思っています。
だからこそ、目の前にいる人の語りに全身全霊をかけて耳を傾けます。
とにかくまず相手をよく理解しようとすることが大切なのです。
決して、思いこまず、早合点せず、わかった気にならないこと。
その方の語りの意味と、語られなかったことの意味と。
とにかく「こころを聴く」ということ。そして、考え続ける。
そこが、この仕事のはじまりになります。
もちろん、様々な理論や枠組みは大切です。
だからたくさん勉強します。
しかし、それらに縛られて人を見ると、何も見えてきません。
それどころか、害になることも多いのです。
型にとらわれたら、そこで終わりです。目の前にいる人の心は見えません。
「わかった」と思った瞬間に、真の理解は遠のくのです。
心理学関連の記事を読むにあたって
これから少しずつ(本当に少しずつだと思います)、心理学関連の記事を書いていくと思いますが、
それらは、ある事象を、ある角度から切り取って見ている視点にすぎません。
もちろん、嘘や偽りではありません。
人によっては、「なるほど!」とヒットする感覚を持たれる方もいらっしゃると思います。
一方で、全然響かないな、と思われる方もいらっしゃると思います。
本当の自己理解とは
これは、ここの記事に限らず言えることだと思いますが、
もし、なにかを読んでいて、心に響かないなと思われる方は、
「何が響かないんだろう、どうしてこれは自分に当てはまらない感じがするのだろう」と考えてみてください。
当てはまると思った方も、それがあなたのすべてではありません。
何がどうヒットしたのか、当てはまらない時はないか、考えてみることが大切です。
きっとその心の作業こそが、本当の自己理解に繋がっていくものだと思います。
おわりに
目の前に提示されたシンプルなカテゴリに当てはめていくことは簡単です。
しかし、そこから抜け落ちていくものの大きさは計り知れません。
時に、抜け落ちたものこそがその人の中にある宝物になるのだと、私は考えています。
私の記事を読んで、「なるほどわかった!」ではなく、
自分について考えるきっかけの一つとなれば、それはとても嬉しいことだと思っています。