目次
はじめに
先月に引き続き、防衛機制シリーズ、第3弾をお送りします。
心理学を学ぶ方、日常場面で人の心の動きに関心のある方、
他者理解自己理解を深めたい方、是非お立ち寄りください。
取り入れ INTROJECTION
今回扱う防衛機制は『取り入れ』です。
他人の属性(感情、価値観など)を自分のものにすること、
真似をすることで心理的に自己の内部に取り入れることを言います。
例えば、好きな人の行動を模倣する。これは、よく行われることですよね。
原始的防衛
これは原始的防衛と言われるものの一つで、とてもプリミティブなメカニズムです。
スタートでは防衛ではなく、生まれたての赤ちゃんが自分に必要なもの、好ましいものをどんどん取り込んでいき、
自分のものにしていく、という本能的な動きであり、
周りにある必要なものをのみこんでいくというところから始まっています。
つまり、何かから心を防衛するというよりも、成長することそのもの、
生命維持そのもののようなところから始まっているのです。
小さな子どもを想像するとわかりやすいと思います。
小さな子どもって、周りをとても良く見ていて、それを取り入れて模倣していきますよね。
最初はすべて模倣です。
動作をするとか振舞うとか、最初に言葉をしゃべるときも、
周りにいる人の発声やイントネーションなど全部取り込んでいきます。
親や社会の価値観を吸収していくことも、このメカニズムによって進んでいきます。
もちろん子どもは模倣ばかりでなく、自ら自由に創造していく力もあります。
ちょっとした偶然で何かを発見し、それをきっかけに新しい遊びに取り組むなど、
自ら思いつき展開させ楽しむということもあります。
そのように、色々と取り入れながら行動を広げ、その中で自分のオリジナリティを生み出したりしながら、
自分というもの、個というものができてきます。
このように、取り入れは正常な発達として見られるもので、成長や適応という点においても大切な動きと言えます。
「取り入れ」の例
取り入れは、大人になってからも作用していると考えられます。
最初にちらっと挙げた『好きな人の行動の模倣』というのもその一つです。
自分の所属しているコミュニティ(家族や学校、習い事や職場、趣味のグループなど)で、
リーダーの態度に似てきたりということも、自然に起こります。
憧れて、ということもあれば、その集団に馴染むように自分と外の世界との境界線を曖昧にする、という意味もあります。
言い換えれば、その集団に属せないかもしれないという不安からの防衛反応ともいえるかもしれません。
心理療法、心理学の世界では、自分と他者、内的世界と外的世界を分ける境界線が重要視されています。
前述した「自分と外の世界との境界線を曖昧にする」ということも、
健康的に働く場合もあれば、境界線が脆弱となり健康度を失うこともあります。
病理的な防衛
例えば、虐待を受けている子どもに多いのは『攻撃者への同一視』と呼ばれる防衛で、
虐待者の性質や価値観などを自分のものとして取り入れます。
虐待者の価値観を取り入れ、「自分が悪いからつらいことをされるのだ」と思うことで、
無力な自分にとってのすべてである保護者は正しくていい人であると考えることで生き延びようとします。
あるいは、虐待者の攻撃性を取り入れ、自身がその攻撃性を行使する…
被害者であるという現実に耐えられず、加害者となることで心を守る。
そういった動きになることも少なくありません。
同じような例になりますが、部活の悪しき慣習で上級生が理不尽な攻撃をしてくるという話もよくありますよね。
下級生としてその攻撃を受けていた生徒たちが上級生となったときに、
後輩たちに対して同じように理不尽な関わりをするという例も、
皆さんも経験があったり耳にしたことがあるのではないでしょうか。
また、取り入れは抑うつに関係するとされます。
自身にとって重要な他者を取り入れ、他者との境界があいまいになった結果、
それが自分のアイデンティティの一部となっている場合には、
その重要な他者を失ったときに、自分の一部を失ったように感じる場合があります。
以上、取り入れ(と同一視)をご紹介しましたが、
もともとは成長や適応に繋がる大切なメカニズムです。
しかし自分と他者との境界線が曖昧過ぎると、
他者が暴力的な場合も魅力的な場合も、その防衛は不健康になる傾向があることが分かります。
おわりに
今回は、防衛機制シリーズ3ということで、”取り入れ”についてご紹介しました。
いかがだったでしょうか。
まだまだ続きます。次回もお楽しみに。
防衛機制①「抑圧」:https://newvivi.biz/repression/
防衛機制②「否認」:https://newvivi.biz/denial/