目次
はじめに
先日の記事で、防衛機制というワードを出しました。
この概念は、日常生活で持っていても面白い視点で、
自己理解や他者理解にも役に立つものだと思いますので、せっかくなのでご紹介したいと思います。
精神分析理論―防衛機制とは
精神分析を生み出したフロイト.S(1856-1939)は、
人間のあらゆる心的現象の背後にある無意識の存在とその意味の解読の仕方を理論化しました。
彼によって解明された精神分析理論における中心概念の一つが、防衛機制です。
その後、娘であるアンナ・フロイト(1895-1982)やその他の心理学者らによって確立・展開されていきます。
衝動や情動、耐えがたい苦痛や不快、羞恥心、罪悪感などを意識化することによって引き起こされる心的苦痛-不安に対して、
それらを無意識に追いやり、心の安定を保とうとする自我の保護的な働きを防衛機制と言います。
平たく言うと、不安やストレスなど、危機に直面した時に、
自分の心・内面を守るため・安定させるために無意識的に働いている心理メカニズムのことです。
例えば、「あの人の持っているあの服がどうしても欲しいけれど、お金がないから買えない」という時に、
その事実をそのまま素直に受け入れることは難しいことがあります。
そういう時には、「よく考えてみたら、実はそんなに欲しくない」とか
「そんなに良い品物ではなかったから、買わなくて良かった」と自分に言い聞かせたりして自分自身を納得させます。
これも防衛機制のひとつです。この防衛機制は、意識的に発動させるものではなく、無意識的に発動することが特徴です。
これらは、使い方が極端であったり、一つのメカニズムを頑なに使ったりすると病的な問題につながりかねませんが、
上手く使えば、誰にとっても日常生活の中で自分をコントロールするために必要なものです。
こういったメカニズムは、発達のプロセスの中で徐々にできていきます。
生まれつきもっている気性に加え、初期には、身近にいる人とのコミュニケーションを通してできてきます。
また、その時代や社会の影響もあり、さまざまな要素の相互作用によりできていきます。
そのようにして、防衛機制にも個人差が生まれ、その独特さは性格特徴にも繋がります。
今回は、フロイトが最初に発見した防衛機制、『抑圧』をご紹介したいと思います。
抑圧 repression
抑圧は、意識することに耐えられない感情や衝動、つらい記憶などを、意識の外、つまり無意識に押しやり閉じ込めることで、
それを意識から排除する無意識の心理的作用です。
嫌なものを押し入れの奥にしまって、一切思い出さない、気づかないようにする、というようなイメージです。
抑圧をするとはどういう状態?
たとえば、抑圧が非常に強い性格の人で、自分は真面目で心が優しい良い人でありたいという人がいたとします。
このような人は、自分自身を好ましく思えるような感情しか自分の意識の中に出さず、他のものは無意識の中に抑え込んでしまいます。
「あいつムカつくな」「仕事だるいな、帰りたいな」、といった感情・考えが本当はあったとしても、意識に上らないようにします。
無理な抑圧を続けると…
抑圧という方法だけを徹底的にやっている人はあまりおらず、もしいたら大抵病気になります。
押し入れにしまい込んでいるだけで、色々な欲動はその人の中に存在しているので、
次第にその人をおびやかし、不安が生じるようになります。
とはいっても根本の原因は抑圧しているため、本人にとっては理由もわからず不安になり、息苦しくなったり、
立てない・目が見えない等、身体に症状として表れることもあります。
日常場面での抑圧
このように書くと病的ですが、実は誰もが使っている防衛です。
たとえば、取引先の人に対して、ちょっと馬が合わないなと感じているとしましょう。
とはいえ、仕事なので関わらないといけない、嫌だなという気持ちをずっと意識化していると大変なので、
その感情は一旦奥の方にしまっておくということをすることもあるのではないでしょうか。
そして、それが破綻することもよくある話です。その人と話しているときに相手の名前を瞬間的に忘れてしまったり、
始まりの挨拶をする場面でサヨナラの挨拶を言ってしまう例などが挙げられます。
これは錯誤行為と言われ、抑圧されている感情が無意識に表面に出てきてしまったのだと解釈されます。
うっかり本心が出てきてしまう、というイメージでしょうか。
ただし、本人は抑圧しているので、それが本心であるという風には感じられない、ただのミスとして認識されるという特徴もあります。
おわりに
今回、色々ある防衛機制のうちの一つ、抑圧についてご紹介しました。
しばらくシリーズでお届けする予定ですので、次回もお楽しみに。