はじめに


防衛機制シリーズ、第4弾をお送りします。

心理学を学ぶ方、日常場面で人の心の動きに関心のある方、他者理解自己理解を深めたい方、

是非お立ち寄りください。


隔離 ISOLATION


今回扱う防衛機制は『隔離』です。

簡単に言うと、「考え・観念」と「感情」を切り離し、

感情を自覚しないように押し込めておくというものです。


緊急場面における「隔離」


たとえば今、大きめの地震が起きたとしましょう。

人によっては、動揺し、恐怖心がわき、叫んだりパニックになるということもあるかもしれません。

それは、「怖いことが起きる」という考えと「怖い」という感情が結びついているからです。

これは人としてとても自然なことですね。

一方で、人によって、あるいは状況によって、緊急事態でとても冷静になる、ということもよくあります。

「地震だ、危険だ。今何をするべきか」と、考えることに集中し、「感情」を切り離しておく。

これも『隔離 isolation』です。


この防衛は、きっと皆さんも色々な場面で使われているのではないでしょうか。

もう少し身近な例を挙げてみましょう。


日常場面での「隔離」


プライベートで飛び上がるほど嬉しいことがあった、あるいは悲しいことがあった、

けれども仕事がある、というときなどは、仕事中に泣き出すわけにもいかないので、

感情を切り離してどこかにしまっておく、なども『隔離』です。

あるいは、苦手な仕事を任されたときに、

「嫌だな」という感情をひとまず置いておいて仕事に取り組む、などもそうですね。

これらの例はどちらかというと意識的にコントロールしてやっている防衛と言えますね。



このように、緊急事態にとっさに、という場合や、社会生活を送る上で必要だからなど、

状況に合わせてよく使われる、とても身近で、必要な、大事な、社会的な防衛です。


ところで、これを習慣的・日常的に使っている人もいます。

日常生活で、色々な場面で、喜怒哀楽の気持ちの揺れが少ない方っておられますよね。

もしかしたら、この記事を読まれているあなたかもしれませんし、あるいは知り合いにいるかもしれません。


過剰な「隔離」の弊害


難しいのは、人と人との関わりの中で「感情」を切り離し過ぎると、

その度合いによってはちょっと難しいことが起きてきたりもします。

たとえば、休日にお友達数人とカフェでおしゃべりをしている場面を想像してみてください。

誰かが「コロナ禍、電車とか使って遠くに遊びに行きにくいよねぇ。空とか飛べたらいいのにね~」

と、何気なく言ったとしましょう。

何人かは、「お出かけしたいよね~」「そうだね~空飛びたいね~」と、

出かけられない残念な「気持ち」や飛べたらいいなという「願望・妄想」に、共感をして、話が落ち着いていきます。

しかし、ある人が「空を飛ぶって、でも不可能だよね、現代の技術では云々」と、

現実的で正しい「考え」を挟んだらどうでしょう。

ちょっとその場の雰囲気が変わるのではないでしょうか。

理屈や論理だけでものごとを見ていて、個人的な感情が置いていかれていると、こういうことが起きます。


病理的につながる「隔離」


この防衛に関連する、精神的な病理の例もいくつかあげたいと思います。


たとえば、どうにも解決できない不安や扱えない感情があるとき、

それを自覚するとしんどいので無意識のうちに切り離しているうちに

別の観念と結びついて意識に上り、しかもその観念の内容がどこから来るのかわからない形をとっている、

ということもよくあります。

必要がないとわかっているのに、汚れている気がして手を何度も洗ってしまう、

鍵を締めたか不安で何度も確認し、外出し目的地に着いてからも不安になって確認に戻ってしまう、等々…。


また、あまりにも辛く、怖いことや悲しいことを体験した人が、その体験を話すときに、

全然感情が伴わず、淡々とお話しする人もいます。

むしろ、聞いている人の方がしんどくなって泣いてしまうようなこともあります。


この防衛は失感情症、アレキシサイミアとも関連が深い防衛です。

これはアメリカの精神科医P. E. シフネオスらが提唱した性格特性の概念で、

自分の感情を自覚・表現することが苦手で、想像力や空想力が乏しいというものです。

元々の特性であったり、環境によって後天的にこのような状態になることもあります。

この性格特性・状態は、ストレスにも気づきにくく対処することが難しいことから、

うつ病や心身症(ストレスに起因して身体的な疾患が生ずる)、依存症など、

その他の精神的な病気にも繋がりやすくなるものでもあります。


おわりに


今回は、防衛機制シリーズ4ということで、『隔離』についてご紹介しました。

いかがだったでしょうか。

まだまだ続きます。次回もお楽しみに。




~過去の記事~

防衛機制①「抑圧」:https://newvivi.biz/repression/

防衛機制②「否認」:https://newvivi.biz/denial/

防衛機制③「取り入れ」:https://newvivi.biz/introjection/